Mr.ハードボイルド
「じゃあなにか?ご主人がやってた配達を、俺がやれと」
俺の言葉にニーナはコクリと頷いた。
「でもよぅ、そんなんバイト雇えばいいんじゃないか?」
おそらく、俺のこの言葉は正論だと思う。
だが、彼女はそうは受け取らなかったようだ。
「トミー、なんでそんなに冷たいのよ!ご主人の入院費用だってかかるのに、そんな余裕ないわよ!」
ニーナはついに涙を流した。
昔、俺が一目惚れした瞳が美しく濡れている。
「おいおい、ニーナ、泣くなって。事情が事情だから手伝ってやりたいのもヤマヤマだけどさ、俺だって慈善事業家じゃないんだぜ?」
俺の言葉に、彼女の瞳はいつもの力強さを取り戻した。
そしてデスクに手を振り下ろして、半ば逆ギレのようなセリフを吐いた。
「じゃあ、私がアンタに依頼するよ!条件は日当で3000円!」
そう言って、ニーナは乱暴にドアを閉めて、足早に行ってしまった。
おいおい、なんだよ、それ。
しかも日給3000円たぁ、そこら辺のコンビニでバイトでもしたほうがましだろよ。
まぁ、かつてはこの俺が一目惚れしてのぼせ上げちまった相棒の頼みだ。
その条件で引き受けてやるかぁ、しゃあねぇ。
吸いかけのタバコをもみ消して、俺はニーナの後を追った。
それにしても、なんでアイツ、そんなにその店に愛着あるんだろう?