Mr.ハードボイルド


明日から山内豆腐店のダンナは仕事復帰するとのことだ。
俺もこれでやっとお役ごめんてとこだ。
山内夫妻にゃ随分と礼を言われた。
ちょっとばかし、そういうんは苦手なもんで、俺はさっさとひとりでオフィスに戻った。

ニーナ、オマエは色々と募る話もあるだろうから、ゆっくりしてこいよ。
オマエがここの店が好きな理由がなんとなくわかった気がしたよ。
なんか、昔に忘れてしまっていた、人の温かみがあるよな、あの夫婦。



「ハイ、トミー、これ今回のアンタへの報酬。3000円の20日分」

そう言って、ニーナは現金の入った封筒を俺によこした。

「あぁ、確かにいただいたぜ」

俺は彼女から受け取ったその封筒にチョイとペンで文字を書いて、彼女に封筒を返した。

「ニーナ、ほれ、時間外手当だ。1日3000円の20日分だ」

「ちょっ、ちょっと、なによこれ、このお金は私からの依頼に対する正当なアンタへの報酬よ」

慌てて、ニーナは俺に封筒を突き返そうとした。

「バカやろう、ホント、オマエ意地っ張りな女だな。いいか、その金はオフィスHBサービス代表の俺からの、従業員であるオマエへの手当だ。黙って受け取れっての」

彼女は嬉しさをかみ殺したような表情でペコリと頭を下げて封筒を受け取った。

「トミー、本当にいいの?」

俺は右目を軽く瞑り、彼女に言った。

「なぁ、ニーナ、オマエ、『武士は食わねど高楊枝』って言葉知らねえのか?」

俺の言葉に、彼女は大笑いしながら答えた。

「じゃあ、トミー、アンタ『据え膳食わぬは男の恥』って言葉知ってる?」



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