Mr.ハードボイルド
俺は愛車のランドクルーザーに、ニーナと彼女の荷物を乗せて、群馬に向かった。
練馬から関越道に乗り、オービスに引っ掛からない程度の速度で走った。
「なぁ、ニーナ、答えたくなかったら答えなくていいけど、オマエ、親父さんに勘当されたって言ってたけど、なにがあったんだ?」
ニーナとは3年近いつきあいがあるが、俺は彼女のその辺の事情はまるで知らない。
今まで彼女から話そうともしなかったし、俺からも聞こうとはしなかった。
考えてみりゃ、2年も仕事のパートナーをしていて、それに、たまにゃ、なんつぅか、その、男と女の関係になったりしているにもかかわらず、俺達はお互いにそういった事情は全く知らない。
「父親とは血の繋がりはないの」
ニーナは寂しげに口を開いた。
「私の実家ね、群馬の富岡市ではそれなりの名家なんだ。もう亡くなったけど、祖父は県議でね、母親はその一人娘だったの。そこに私の実の父親が祖父の跡取りとして婿に入ったんだけど、私が5歳の時に事故で死んじゃったんだ」
俺は、助手席で遠い目をしながら話すミラーに映るニーナの表情を見た。
「でね、今の父親が、私が10歳の時に母親の再婚相手として婿に入ってきたの。祖父が跡取りのために無理矢理決めた再婚だったんだけどね。そして、父親は祖父の後を継いで県議になったわ。ただね、私、その父親とは全くソリが合わなかったの。権力欲の塊のような人でね。高校を卒業してすぐに私は富岡を飛び出したんだ」
そんな過去があったんだな。
本来なら実の父親が生きてりゃ、お嬢様として幸せに過ごすことができたかもしれんのにな。
それなのに、なんで、オマエ、俺の相棒なんてやってんだ?
今からでも父親と和解して、実家に戻った方が、ニーナ、オマエ、幸せになれるんじゃねえのか?
そんな考えが俺の頭によぎったが、俺はそれを口に出すことはできなかった。