Mr.ハードボイルド
さて、ニーナもいないこったし、しばらく休業とすっか。
俺はオフィスを閉めて、あてもなく街へ繰り出した。
飲み行くには早いし、スロットでも打ち行くかぁ。
あらら、出ましたな、ざっと3000枚か。
投資も4000円だけだし、プラス56000円也。
俺ってば、パチプロになれんじゃねぇか?
ったく、つまんねぇなぁ。
しゃあない、祐希ちゃんとこへでも飲みに行くか。
俺は『BAR マダムローズ』の扉を開いた。
「あらぁ、トミーちゃん、いらっしゃい」
ダミ声でマッチョなローズママが俺に気づいて声をかけた。
「あら、今日はおひとりなの?」
「あぁ、ニーナはばあさんが入院したとかで実家に帰ってな」
「ふ~ん、それでトミーちゃんたらつまんなそうな顔してんのね」
フッ、さすがにローズママは鋭いぜ。
「そんなこたぁねえだろ!ヤキモチやきのうるせぇ女がいねぇから、むしろ、せいせいしてらぁな」
せめてもの強がりだった。
ローズママは呆れたような表情を作り、祐希ちゃんを俺の隣の席に呼んだ。
「富井さん、いらっしゃい」
彼女は嬉しそうな、まぶしいくらいの笑顔を俺に見せた。
「やぁ、祐希ちゃん、武蔵くんは元気かい?」
「それがね、武蔵ったらね最近、富井さんの姿が見えないからって元気ないのよ」
「そりゃ、悪いことをしたな、今度、一緒に散歩しようって伝えといてくれ」
「約束だからね、富井さん」
祐希ちゃんはそう言って俺にしなだれてきた。