Mr.ハードボイルド
「まぁ、いいわ。それより、トミー、アンタ初めて私のこと『ニーナ』じゃなくて『朋美』って呼んでくれたね。実はね、ちょっと嬉しかったんだ」
ミラーに写る彼女の顔は眩しいくらい嬉しそうだった。
「そんなことぐらいで、喜んでくれるなら、いくらでも言ってやるぜ、朋美」
ハンドルを握る俺の手は、なんとないこっぱずかしさで軽く汗ばんでしまった。
「でも、アレだな?やっぱりしっくりこないな。オマエがニーナで俺がトミーでいいんじゃねぇか?『トミーと朋美』だとなんとなく響きが似ちまってるし」
俺の最大限の照れ隠しをどう受け取ったかわからないが、彼女はいつもの笑みを浮かべていた。
「なぁ、ニーナ、天気もいいし、旅行でも行くか?」
「ドコに?」
「そうだなぁ、箱根辺りの温泉とかどうだ?」
俺の提案にニーナは顔をほころばせた。
「いいわねぇ、たまにはユックリと温泉なんてのもね。でも、トミー、温泉旅館じゃ、半熟の温泉玉子しか食べられないかもよ」
彼女の言葉に、俺はワザと大きな声で言ってやった。
「別にかまわねぇさぁ!ニーナ、オマエが俺の隣にいてくれりゃあ、それだけで!」