Mr.ハードボイルド



「木下恵一ぃ~!アンタねぇ~、ちょっとばかりカッコイイからって調子にのるなぁ~!」

『BAR マダムローズ』にいた面々は、俺も含め、鳩が豆鉄砲くらったような顔をした。

「そのくせ、ちょっとキレイな人と話しすれば、純情そうにすぐ赤くなったりしやがってぇ~!」

鹿島女史の魂の叫び声はマイクのハウリングを伴って、頭にガンガン響いた。

オイオイ、鹿島さんよぅ、どうして、そうなっちゃうのかなぁ?

「アンタ、医者としちゃあ、まだまだ勉強不足なんだぞ!あっ、これは部長先生が言ってたことだから」

そう言って、彼女はフニャフニャと笑っていた。

「でもね、私は知ってるよ!アンタがいつも一生懸命勉強してること。夜遅くまで次のオペのシミュレーションしたり、文献読んでたり、本当エライ!」

おーい、鹿島さ~ん、言ってることが支離滅裂なんですが。

「患者さんそれぞれに悩む病気や怪我があって、それに向き合うそれぞれの医師がいて、一期一会じゃないけど、一生懸命なアンタが受け持つ患者さんは、幸せかもしれないよね」

なんか、話の方向がよくわからないのですが。

「そりゃあ、経験は部長先生より少ないかもしれないけどさ、その分、アンタは治療に対して真摯に懸命に向き合ってるのは私にはわかるのよ!」

あらら?
鹿島さん、涙流し始めたよ!

「私ね、木下恵一先生、そんなアンタの姿が大好きなんだぁ~!」

そう絶叫して、彼女はステージの上に崩れるように倒れ込んだ。

す、すげぇよ、鹿島さん、一世一代の大告白じゃねぇか!
それも、これ以上ないってくらいのド直球で!


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