Mr.ハードボイルド
オフィスの電話が鳴った。
「はい、オフィスHBサービスです」
よそ行きの声でニーナが応対している。
相変わらずイイねぇ、その声。
そんな事を考えながら、俺は彼女のために極上のモカを入れていた。
「トミー、山内さんからよ」
週1回の割合で豆腐の配達販売を依頼してくる、山内豆腐店のご主人からだ。
「どうも山内さん、来週の依頼の件ですか?」
俺の脳天気な口調とは裏腹に彼の声は沈んでいた。
『いやぁ、富井さん、今日はちょっと別件でして。富井さん、3丁目の菅原さんご存知でしょ?菅原さん、お亡くなりになられました』
俺は絶句してしまった。
『今夜、お通夜、明日に告別式があるので、富井さん、お別れに行ってあげて下さい』
俺は、伺います、の一言を言って電話を切った。
俺の反応に気付いたニーナは声をかけてきた。
「トミー、どうしたの?」
俺は一言だけ、彼女に伝えた。
「菅原さんが亡くなったそうだ」