Mr.ハードボイルド
「おい、ニーナどういうことだ?」
オフィスに戻った俺はニーナに食ってかかった。
「なんのこと?」
笑いをこらえるような表情で彼女は答えた。
「だから、今日の依頼のことだよ!なんだぁ?犬の散歩って!しかも、全然なつかねぇし、気にいらねぇ犬だしよ。バアさんは犬のこと娘っていってるしよ!どうぞ、仲良くして下さい、エリザベートちゃんのお友達になってね、なんて言われたんだぞ!」
「だから、カサノヴァ並の、自称プレイボーイのトミーさんにうってつけの仕事なんじゃないの?どんな難しい女の子の心を開くの得意でしょ?それに朝食の条件も飲んでくれたわよ、先方。いい仕事じゃないの、食事つきで、若い女の子とお散歩するだけで、1ヶ月に12万なんて!」
ついに、ニーナのヤツは吹き出して高笑いをしやがった。
「て、テメエ……」
俺が文句のひとつも言おうとして口を開いたその瞬間、
「あぁ?アンタ、私に楽しい仕事させてくれるって言って、私をキャバクラから引き抜いたんでしょ?それなら、きちんと仕事してよ!ったく、アンタさぁ、店の用心棒やったら店の女の子に手を出してクビになるし、着ぐるみショーの悪役の仕事したらヒーローをやっつけちゃうし、バカだろ?」
と、容赦ない言葉がニーナの口から飛び出した。
「で、でもよう、ちゃんとニーナには契約通り、月給で50万渡してるだろ?」
俺のせめてもの反撃を、ニーナはバッサリ切り捨てた。
「多少アンタに蓄えがあってもさ、アンタが1銭も稼いでこなきゃ、いずれ私の給料も無くなるだろうが!このボケっ!」