Mr.ハードボイルド
都内から、1時間弱で菅原のバアさんの旦那の眠る墓地に到着した。
抜けるような青い空が俺たちの頭上に広がっている。
「あぁ~、すげぇイイ天気だなぁ~。これで隣にいるのがイイ女だったら言うことねぇんだがな」
「なに言ってるの!私はこれでも若い頃は街で噂の美人小町って呼ばれてたんだよ」
ほぅ、歳をとっても女は女なんだなぁ。
「わかった、わかった、菅原さん、そんな興奮するなって。血圧上がるぞ。まぁ、そんなことより早く旦那さんとお話ししてきてやんな」
「アンタも来るんだよ。来なきゃ契約不履行でお金は払わんよ」
そう言って、彼女は俺の手をとって歩き始めた。
「わかったよ、半世紀前の美人さんよ」
公園墓地の一角に旦那さんの墓はあった。
菅原のバアさんは、梨とワンカップの酒を供えながら、まだ封の切っていないタバコを1箱俺に手渡した。
俺の普段吸っている銘柄とは違うがありがたく頂戴することにした。
「ちょっと、アンタ、なにお供え物をガメようとしてんのさ。さっさとそのタバコに火を点けてよ」
あぁ、なるほど、そういうことか。
俺にくれたわけじゃねぇのな。
俺はタバコの封を切り、1本取り出して口にくわえジッポライターで火を点けた。
白い煙がスゥと空に向かいユックリとたなびいていった。
そして、タバコの箱と、この火の点いた1本を墓の前に供えてやった。
「線香の代わりにタバコたぁ、なかなかイカした旦那さんだったんだな」
「あぁ、イイ男だったよ。しかも優しくてね。そういえば、若い頃のこの人は、どことなくアンタに似ているような気がするよ」
彼女のこの言葉に俺は多少口元を緩ませてしまった。
「あぁ、俺に似てんならさぞイイ男だったんだろうな」