Mr.ハードボイルド
「さぁ、菅原さん、帰るか。この時間なら昼過ぎには家に着くぜ」
俺の言葉に菅原のバアさんは首を横に振った。
「いんや、まだこれから連れて行ってもらいたいところがある」
「あぁ?どこに行きたいっての?」
「南伊豆の石廊崎へ」
正直、俺はふったまげた。
「い、石廊崎だぁ?伊豆半島の一番下じゃねぇか!なんだってそんなところに?」
俺の問いに彼女はしんみりとした様子で話した。
「思い出の場所だから。旦那と新婚旅行に行ったのも伊豆で、最後にふたりで行った旅行先も伊豆だったんだよ。今となっちゃ、もう、ふたりで一緒に旅行するのも無理だし、せめて私が動けるうちにもう一度行っておきたいのさ。私にだっていつお迎えがくるかわからんし」
そんなこと言われちゃ、ダメとか言えねぇじゃねぇか!
わかったよ、菅原のバアさん、俺もプロのなんでも屋だ。
その依頼キッチリこなしてやるさ!
「じゃあ、菅原さん、伊豆半島のドライブデートと洒落込みますかぁ!」
そう言って、俺はカーナビを石廊崎にセットした。
順調に行って約4時間か。
往復でざっと10時間近くはかかるだろうな。
とりあえず、ナビに従って俺は厚木インターから東名高速に乗って沼津インターに向かった。
「なぁ、菅原さん、沼津から函南にでて伊豆中央道通って、月ケ瀬のあたりからループ橋経由で河津にでて海沿い走るコースで石廊崎に行くけどそれでいいか?どっか寄りたいところがあったら先に言ってくれよ」
俺の言葉に彼女は、それでいい、とコクリと頷いた。