Mr.ハードボイルド
弓ヶ浜を後にした俺たちは目的地の石廊崎へと向かった。
すでに陽が傾きかけていた。
石廊崎に着くと、菅原のバアさんは鞄の中をガサゴソと探りだした。
そして2枚の写真を取り出した。
「これはね、旦那と新婚旅行に来た時の写真。そして、こっちが、最後にふたりで来た時の写真さ」
そう言って、彼女は俺に写真を手渡した。
「ほぅ、どれどれ、おぉ、ホントに菅原さん美人だったじゃねぇか!驚いたね、こりゃ。でも、旦那は、俺の方がイイ男なんじゃねぇか?」
「アンタはまったくバカだね!アンタよりあの人の方がずっとイイ男だったよ!」
まぁ、そう言うと思ったがな。
それにしても、幸せそうな顔してんじゃねぇか、菅原さんよぅ。
俺はセピア色にくすんでしまっている白黒写真を見て思った。
写真の中の彼女は心の底からの溢れんばかりの笑顔を顔に浮かべ、ちょっと緊張しながら直立している、愛しの旦那さんと腕を組んでいた。
そして、もう1枚のカラーの写真でも、同じように菅原のバアさんが笑顔をたたえ、旦那さんと腕を組んでいた。
なんか、イイもんだなぁ。
俺もこういう風に歳をとれたら幸せなんだろうな。
「さぁ、灯台まで連れて行っておくれ」
そう言って、菅原のバアさんは俺の腕をとった。
「なんで、腕組まなきゃならないんだよ!旦那さんに怒られるぜ!」
「大丈夫さぁ。こんな事で目くじら立てるほど心の狭い人じゃないから」
ったく、ニーナだったら、たとえバアさん相手でもヤキモチ妬いてくるんだがな!