Mr.ハードボイルド


俺は菅原のバアさんと腕を組ながら、灯台までユックリと歩いた。
傾きかけた西陽が海面に反射して、眩いくらいのオレンジ色に輝いている。

「なかなかキレイなもんだなぁ」

俺は独り言のように、輝く水平線を見ながら呟いた。

「アンタもそのうち嫁さん連れて来ればいいさ」

「あぁ、いずれ結婚したらぜひ来たいもんだ」

「なんだ、アンタ独身かい?ははぁ、結婚したくても出来ないんだろ?かわいそうに」

菅原のバアさんは憐れむような視線で俺を見た。

「違うっての!彼女くらいいるっての!結婚できねぇんじゃなくて、まだしたくねぇってだけだ!」

まったく、このバアさんにはかなわんなぁ。

俺はバアさんを残し、ベンチに腰をかけてタバコに火を点けた。
俺の視線の先には、広大な輝く海が広がっている。
その光の中に菅原のバアさんは、物思いに耽るように独り佇んでんでいる。
不意に海の輝きが増したように思えた。
おそらく、俺の気のせいだろうが、その輝きの中で、さっき彼女に見せてもらったセピア色の写真の風景が見えた気がした。

オレンジ色に輝く海を背景に心底幸せな笑顔の若き日の彼女と旦那さんの姿が。

ユックリ目を閉じ、もう一度目を開くと、そこにはいつもの菅原のバアさんの姿があった。

「なぁ、そろそろ、陽も落ちるし、帰ろうぜ」

俺の言葉に呼応するように灯台に火が灯った。

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