Mr.ハードボイルド
「今日は本当に楽しかったよ。もうこれで思い残すことはないよ。いつでも旦那のところへいけるよ」
菅原のバアさんは晴れ晴れとした顔で言った。
「おいおい、まってくれよ。そんなこと言うなって。菅原さんにゃ、もっと長生きしてもらわにゃ困るよ」
「アンタがなんで困るんだい?」
「そりゃあよぅ、菅原さんは、山内豆腐店のお得意さんだしよ、それに、今日来たここにゃ、いずれ彼女を連れて来たいんだ。そん時の写真とか見せてやるからさぁ、長生きしてもらわにゃ困るってことだ」
俺の言葉に菅原のバアさんは笑いながら言った。
「アンタが嫁さん連れてここに来るの待ってたら、私は100歳まで生きなきゃならないだろうよ。そんな長生きはしたくはないさ」
「おいおい、そりゃないだろ。俺、自分で言うのもなんだが、結構モテるんだぜ」
「バカ言うのもじゃないよ。そんな自惚れ屋がモテるわけなかろうに」
まぁ、こんだけ憎まれ口を叩けるようじゃ、お迎えは相当先だろうな。
俺は菅原のバアさんを家まで送り届けた。
「ほれ、今日の報酬だよ」
彼女はいくばくかの金を俺に渡そうとした。
「いらねぇよ。今日は菅原さんに人生とは何かって色々と教えてもらったから、その金は授業料としてお返しするぜ」
俺の言葉に彼女はため息をひとつついた。
そして鞄をガサゴソと探り、あのセピア色の写真としわくちゃの5000円札を1枚俺に手渡した。
「じゃあ、なんでも屋に別の依頼をするよ。その写真を大事に保管しておいてくれ。そのお金は報酬だから」
「あぁ、わかった。ただし、俺がいずれ自分の大切な女とあの場所に訪れたら、その時の写真とこの写真、菅原さんにお返しにくるからな。まぁ、その時まで大切に預かっておくことにするぜ」