Mr.ハードボイルド


俺は礼服に袖を通しながらニーナに言った。

「そんなことがあってな、その後も何回か豆腐売りに行ったんだ。先週だって、元気だったんだよ。それが信じられねぇぜ、マッタクよ」

「トミー、その写真は?」

喪服姿のニーナに、俺は机の引き出しを開けて、バアさんから預かったセピア色の写真を手渡した。

「本当、幸せそうね」

ニーナは美しい瞳で写真を見つめていた。

「あぁ、心底幸せだったんだろうよ」

「この写真返さなくていいの?」

「約束だからな、俺が俺の大切な女とその場所に行ったら、報告がてらお返しするって」

俺たちの間にしばしの沈黙が続いた。

「なぁ、ニーナ、来週にでも石廊崎に行かないか?」

「えっ?」

「菅原のバアさんとの約束だ」


俺はバアさんから依頼の報酬としてもらったしわくちゃのお札を香典にした。

菅原さんよぅ、この金、三途の川の渡り賃の足しにしてくれよ。

来週には、アンタの墓前にあの写真と、俺と俺の愛する女の写真持って報告に行くからさ、楽しみにしててくれよ。


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