Mr.ハードボイルド
まぁ、なんやかんやあったが、俺も一応プロの端くれだ、仕事はきちんとこなしてやるさ。
朝7時、エリザベートお嬢様をお出迎えに、俺は三枝夫人のもとへ訪れた。
「富井さん、エリザベートちゃんをよろしくお願いしますね。ハイ、これがリードでこれがウンチ袋」
そう言って彼女はお散歩セット一式を俺に手渡した。
「戻っていらしたら、富井さんのご朝食の用意しておきますので、お声をかけてくださいね」
エリザベートお嬢様は、一言いわせてもらうと、ホント、ワガママ娘だ。
絶対に自分が行きたい方向にしか進まず、俺が行きたい方向が気に入らないとテコでもうごこうとしない。
それに、ボーダーコリーという犬種の特徴であろうか、やたらと走る。
ホント、運動量がハンパない。
公園で俺が気を抜いてタバコを一服でもしようものなら、いきなりの猛ダッシュ。
危うく何度転びそうになったことやら。
それでもって、一向に俺の言うことは聞こうとしない。
確か、ボーダーコリーってもともと牧羊犬だったよな?
賢いハズなんだが。
まぁ、わかったことは、完全に人間をナメきってるな。
この先1ヶ月、疲れる毎朝になりそうだぜ、こりゃ。
2時間の散歩を終えて、俺は三枝邸に戻った。
「お帰りなさい。富井さん、エリザベートちゃん。さぁ、ご飯ができてますわ、どうぞ、召し上がれ」
俺の前には炊きたての湯気が眩しい白米と、納豆、そして赤味噌のみそ汁が並んでいた。