Mr.ハードボイルド
まぁ、なんやかんやいっても、運動能力の低い御婦人よりも、バツグンに若くなおかつイケメンな俺の方が、エリザベートお嬢様のお散歩の相手にはふさわしいらしく、1週間経った今は彼女もこの朝の2時間のデートはお気に召している様子だった。
公園でリードを目一杯伸ばして、エリザベートお嬢様とボール遊びをしていた。
すると俺の視界に、とても美しい人間のお嬢様と、彼女に連れられたお上品な小さな犬が飛び込んできた。
いいねぇ。
めちゃくちゃ、俺の好みじゃねぇか!
サラサラとした黒髪に澄んだ大きな瞳、それに、思わず手を伸ばしたくなるようなかわいらしい唇。
実にいいねぇ。
思わず、俺の目は彼女に釘付けになってしまった。
俺は彼女に悟られないように、サングラスをそっとかけた。
ん?
エリザベートお嬢様の様子が変だなぁ?
エリザベートはじっと、彼女の連れているチワワかな?同じ白黒の模様をした小さな犬を見つめているようだった。
あらら?
エリザベートお嬢様ったら、珍しく尻尾を振りながら、クゥ~ンクゥ~ンと甘え声を出してやがるよ!
普段は他の犬がきたら、唸って威嚇ばかりしてんのに珍しいこった。
「おはようございます」
あら?
人間のお嬢様が俺に話しかけてきたよ。
「かわいいワンちゃんですね。ボーダーコリーですか?」
ほっほぅ、たまらんねぇ。
「えぇ、そうですよ、そちらはチワワちゃんですね」
俺はいつもより低く、渋めの声を意識して彼女に答えた。
「いやぁ、珍しいこともあるもんだなぁ。普段、コイツなかなか他のワンちゃんや人間になつかないんですよ。威嚇とかしちゃうこともあるし。でも、アナタとそのコにはものすごく喜んでます。きっといい人だってコイツには、わかるんでしょうね」
どうだ?
これで、つかみはOKか?
彼女は美しい笑顔を俺に向けてくれた。