Mr.ハードボイルド
「びっくりしたぁ~。なんで富井さん、プラチナカードなんて持ってるの?」
帰り道で祐希ちゃんは、心底驚いた様子で俺に尋ねた。
「いゃ、まぁ、そりゃ、色々あるからさ」
まぁ、ちょっと答えにくかったので、俺は曖昧な返答をしておいた。
「それならなんで、いつもお店でツケで飲んでるの?」
「そりゃ、現金を持ち歩いてないからさ」
「あぁ~なんだか悔しいなぁ。逃がした魚はデカかった、みたいな感じ」
そう言って、彼女はイジケたフリをした。
「まぁ、そう言うなって。それに俺、魚じゃねぇし」
俺の言葉に彼女は大笑いした。
大笑いしすぎたのか、彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
「本当に、富井さんておかしな人。ねぇ、ホント、ニーナさんを幸せにしてあげてね。私にこんなに協力させたんだから、彼女を泣かせたりしたら許さないわよ、約束よ」
そう言って、祐希ちゃんは俺の胸にすがりついて嗚咽を漏らした。
「あぁ、約束するよ。ありがとうな、祐希ちゃん、そして、ごめんな」
俺の言葉に彼女は駄々をこねる子供のように頭を振った。
「富井さんが、謝ることなんて、なにもないから」
そう言って、彼女はしばらくそのまま俺の胸に顔をうずめていた。
そして、落ち着いたのか、祐希ちゃんは顔を上げ笑みを浮かべ俺からユックリと離れた。
「今度はご夫婦揃ってのご来店をお待ちしてますから。今後もマダムローズをご贔屓に」
そう言い残して、彼女は小走りに走り去って行った。