摩訶不思議目録2
テンの村
「草が口に!!!ブフェ!!!」
僕は草むらから飛び出すと、そこには木造平屋の家がいくつかあった。
村というより、集落に近い気がする。
焼ける魚のにおいがして腹が減ってきた。すると、目の前に小さな坊やがつったってこちらを見つめる。
そして坊や走り出して一つの家に入っていった。
「お父様!!!変な人が村にはいってきました!!!」
人を変な人のように言うんじゃないと思いつつ坊やが出てくるのを待っていると、大きな機関銃を担いで走って来る大柄な男が現れ、銃口をこちらに向ける。
「貴様!!どうやって入った!!」
大柄な男は、足元の坊やを撫でながら叫ぶ。
「テンを追ってここにきたんだよ。」
僕は頭の制帽を取ってお辞儀をする。
「変質者がいます!!!助けてください!!」
が、坊やが村中を駆け回って叫ぶものだから、頭にきた。
僕は坊やを取っ捕まえて殴ろうと振りかぶる。
「坊!!!逃げろ!!!」
大柄な男は機関銃を乱射するから、身動きが全く取れない。
周囲をテンや人型が集まる。
「なんだとーー!!やるのか!!!」
僕は、羽織りの内側から小型ナイフを持って大柄な男に殴り掛かる。
と、ビュっと音をたててナイフを振り下ろす。
何かに当たる感触がした。...ところで僕は反抗して来ない相手に恐怖を覚え、後ずさる。
「...!!」
大柄な男の目の前には細く白い腕が破れた生地から見え隠れしていた。
微かに滲みはじめる腕はゆっくりと腕をしまうと、目を僕にあわせた。
「また貴方ですね。困った人だ。」
「あ、貴方は..!!夕方の!!」
貴方だった。騒ぎで出てきたのだろうか。貴方の表情がやや曇るが、変わらぬ笑顔だった。
「喧嘩早いようですね。刃物を子供が持ち歩いてはいけませんよ。」
貴方が言うと、横で大柄な男は言う。
「知り合いか?」
貴方は頷くと座り込んだ。大柄な男は銃口をしまい、睨むようにこちらを見る。
「知り合いにしては物騒だが。名前はなんと言う。」


「..イタチ。」
僕は複雑な気持ちを揺らしながら答えた。

「イタチか。鎌鼬かっての。俺は、猪谷(イノタニ)。あんまり手荒なことをすると流石の俺も怒るぜ。」
大柄な男。イノタニは足元に寄り添うテンを見ながら呟く。
つぶらな瞳のイタチのようなテンは、小さな細長い体を震えさせている。
「昔から頭にくるとすぐに手が出るタイプで。」
僕はナイフをその場に捨てた。
取り囲んでいた傍観者はざわめく。
「恐ろしいわ。」
「イタチ族は乱暴なのかな..。」
いろいろな声が飛び交う中、僕は悲しかった。
< 12 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop