摩訶不思議目録2
そのまた昔
私、雨宮香子は貴方と話していた。
今日起きたこと、今日のことは全て話していた。
それを貴方...いや、先生は全てをわかってくれた。
先生はある日私にとある戸棚を開けさせた。病室の一角にある戸棚。木製の戸棚だ。
「そこを開けてみなさい。」
先生は年齢に合わない白い髪を揺らしながら指を指す。
「紙の束が入っていますよ。これで何をしようというのですか?」
私は紙の束を広げながら呟く。
先生は言う。
「僕の最後の話です。」
それもそのはず、先生は物書きだった。濃い鉛筆で書き上げた原稿は、見ているだけでドキドキしてしまう。
が、最後の話とはどういう事だろうか。私は疑問に思いつつ原稿を読みはじめた。
読みはじめて1時間、数百ページにも及ぶ文を読み上げた。読むのが早めの私にはこのくらい楽だったが、なんだかきもちがよい。
「妖怪であふれかえる未来ですか?面白そうですね。」
私が原稿の話をすると、先生は青銅を鳴らしたような声で言った。
「ええ。僕に妖怪は見えませんし、いるのかもわかりません。ですが、彼等はきっといるんじゃないかと思いましてね。」
「なご...なごまさ...和正?このナゴマサという時代は発展しているようでしていないどこかおかしな雰囲気。主人公のイタチ君も、怪しげな師匠もどこか浮いた存在ながらも時代が隠しているように見えますね、先生。」
私が顔を上げると先生はいなかった。
貴方の点滴がただそこに落ちているだけであった。
「先生......?」
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