雪の朝、君が眠りにつく前に
「おはよ、朝綺」
あたしの挨拶に応える声はない。
朝綺の喉は、呼吸をするのが精いっぱいで。
声を発する機能は、もう失われてしまったから。
姿勢の安定性の高い車いすの上で、朝綺が、ゆっくりと、まばたきした。
肘置きに固定された朝綺の右手の、指先が動く。
微細な動きで操作できるタッチパネルが、朝綺の声だ。
モニタに、朝綺の言葉が表示される。
〈おはよ
また徹夜?
目元がひどいことになってる〉
「うるさいわね。
今月中にどうにか結果を出したい実験があるのよ」
〈お疲れ〉
朝綺が入院してるのは大学附属病院で。
あたしはその大学の医学部で研究をしてる。
だから、毎日会える。
それだけがあたしの希望。
あたしが頑張れる理由。