雪の朝、君が眠りにつく前に
朝綺は、指先の言葉で軽口を吐き出す。
あたしをからかって、まなざしだけで笑う。
視線ひとつきりなのに、誰よりも表情豊かなんだ。
最初に頬の表情筋が動かなくなった。
次に唇が持ち上がらなくなった。
舌は唇よりも後だったから、話したがる朝綺はもどかしそうだった。
流動食すらダメになったのは、舌の自由が利かなくなったころ。
朝綺の病気は進行性だ。
全身の筋肉が次第に動かなくなっていく、という不治の病。
まぶたを持ち上げる筋肉は、まだ健在。
眼筋も動くおかげで、まなざしだけは、感情を鮮やかに映し出す。
少し色素の薄いその目は、頬がこけたせいで、ますます大きく見える。