意地悪なキミと恋をします。
「はぁ〜〜〜〜」
つかれた!!
ほんとつかれた!
「それにしても…」
悔しいけど、カッコよかったな。
ふと、50mを走る、むかつくあの男のことを思い出した。
むかつくくせにあんな綺麗な顔して、むかつくくせに綺麗なフォームで、服で汗を拭くあいつの肌が見えた時、少しドキッとして。
うーーーん。
同じ学年かな?今日なわけだし。
でもクラス何組だろ?見たことないし同じクラスではないんだろうな。
閉門の放送がかかり、さっさと学校を出る。
「今日は、いないよね」
一人きりの帰り道、雅人の学校の前を通り過ぎるの、すごく緊張しちゃう。
ドキドキってゆーか、ハラハラ?
怖くて、足がすくむ。
「…」
情けない。
苦しくて、うまく歩けない。
一度立ち止まって、自分の頬をパチンと叩いた。
「よっしゃ!!目つむって、思いっきり走って通り過ぎよう!」
ギュッと目を閉じて、
「またあんたかよ。あんたどんだけ俺の行動邪魔したら気がすむわけ」
「っ!」
いきなり声をかけられてびっくりしながら振り返ると、
「あんた体育の!…」
むかつく男。
言いかけてやめた。セーフ。
「誰がむかつく男だよ」
思いっきり顔をしかめて睨まれる。
げっ!!声に出てたんかい!
「ま、どーでもいいけどさ…のいてくんない?俺通れねーんだけど?」
むかつく男は手をひらひらさせてのけと促してくる。
「…つく」
「は?なんて?全然聞こえませんけど。独り言はバカでけー声出してんのにな」
そう言われた途端、体が勝手に動いて、
「むかつくって言ってんの!通りたきゃ端っこの方通りなさいよ!通れるでしょ!?あんたは王様か!」
聞こえるようにむかつく男の耳元で、バカみたいに大きい声で言ってやった。
言い終わった後少し離れて、ふふんっと鼻を鳴らすと、
「…あー。うるせー。耳おかしくなりそ」
そう言って耳を触りながら、もなすごーーーく怒った顔で今度は向こうから距離を詰めてきた。
「ちょ、まっ、確かにうるさかったけど!でも、あ、あんたが悪いんでしょ!…ねぇ!」
「…俺、あんたみたいな女、すげーむかつく」
「そ、それは、そうでごさいましょうねぇ!すいません!すいません、だから止まって!」
どんどん縮まる距離は後数センチのところで止まり、もう私のハートはオーバーヒート。
あ、なんかラップっぽかったかも。
なんて思ってると、
「…俺が王様だったら、あんた、俺の言うこと聞けよ」
耳元で、すごく甘い声が聞こえた。
「えー…っと。ちょ、私…」
無理です。そう言おうとしたけど、
「拒否権ないから」
「な、なんで!?」
ふいっと体を起こすと、すっごく意地悪な笑顔を向ける。
「あえて言うなら、むかつくから」
は!?それだけ!?
「だ、だいたい!私あんたの言うこと聞く理由なんてないから!」
「あー、イテテ。耳おかしいなー。耳鼻科行かなきゃいけないかもー」
完全な棒読みで、チラッと私に目をやる。
「〜〜〜っ!!!…わかったわよ!なんでも聞くわよ!なに!?なにしたらいいの!」
完全に私の負け。
「うーん、じゃ、とりあえず…
…忠誠のキス、しろよ」
はぁ!?!?
「いやっ、無理無理無理!いや、ファーストキスとかじゃないけどさ!でも、好きでもないのにそれは…んっ!?」
リップ音とともに、少しだけ、久々に感じた唇のぬくもり。
「…莉奈」
近すぎて表情はわからないけど、私をしっかりと捕らえた眼の奥で、そんな声が聞こえた気がした。
「…もう!ちょっと…最低!!好きでもないのに、そんなことしないでよ!」
「…べつにいいんじゃね?減るもんじゃないし、あー耳いてー」
「もー!!今回だけだから!次したら、その脅しも言えないようにしてやる!」
「おーおー。気の強えこと」
なんて言いながら歩き出す。
私は、むかつきながらもむかつく男の後を歩く。
「べっ、べつに、あんたと帰る方向が一緒なだけだから!」
「……海斗」
「え?カイトウ?」
「ばか。名前。呼べよ」
ああ、かいとね。
「海斗様でもいいけど?」
なんて、むかつく男改め、海斗が振り向きながらいたずらに笑う。
その笑顔に見惚れながら、
「ばか!言わないわよ」
目をそらしながら、
私たちの物語が始まった。