意地悪なキミと恋をします。
お昼前の授業中、ふと海斗の席を見る。
海斗の席は窓際の一番前。
前まで先生の物置だった机。
どうして海斗は急に教室に来るようになったんだろう。
どうして海斗は私なんかのために女嫌いなくせに頑張ってくれるんだろう。
頬杖をついて、春の暖かな日差しに照らされながら窓の外を見つめる海斗。
絵になるなぁ…。
「おい!聞いてんのか!皐月この問題とけ!」
え!?私!?
「私!?じゃない!ほら立て!」
あちゃ、声に出てた!
「うるさい、こまってぃー。そんな短気だから彼女できないんでしょ!」
いつものノリで担任兼数学担当の小松先生に口答えすると、その瞬間クラスがワッと笑いに包まれる。
よかった〜。
こまってぃーに私が海斗の方見てたってバレてなくて。
チラッと海斗を見ると、海斗も私の方を見ていて、目があった途端前を向いてしまった。
しばらくして授業終了のチャイムが鳴り、みんなそれぞれお弁当を食べ始める。
私が向かうのは優希先輩…のところではなく、
「海斗!今日は逃さない!」
「……どーせ昨日のことだろ?逃げねーよ」
思ったよりあっさりと話を聞いてくれた。
私たちは部屋を移し、誰も使っていない空き教室に入る。
「…はい、これ」
「…え。俺、パンあんだけど」
「あんた私がお弁当作らなくなってから、毎日パンでしょ?栄養偏る。これ食べて」
すっと差し出したのは前まで毎日作っていたお弁当。
「莉奈のくせに生意気」
何て言いながら蓋を開けて食べてくれる。
「やっぱ莉奈の弁当はうまいな」
そして、相変わらず綺麗な笑顔でうまいなんて言ってくれるから、思わず赤面していると。
「………はぁ〜」
大きく盛大にため息をつかれた。
「なんのため息よ!もしかしてうまいって嘘なの?」
「…ちげーよ、弁当はうまい」
「じゃあなによ!」
もうっと付け足すと、しばらく渋ってから、手で軽く顔を隠して、
「そんな顔されると、期待すんの」
「期待?なんの期待?」
その瞬間お箸を持っていた方の手をくいっと軽く引っ張られて、距離がふっと縮まる。
「お前が俺に惚れてくれるんじゃないかって、期待」
「ほ、ほれ…?」
急に恥ずかしくなって、目を下にそらす。
「莉奈…。お前が俺に気がないならもう二度と言わないから一回だけ聞いて…」
「……うん」
海斗の言葉はいつになく真剣で、目を合わそうと顔を上げたときに軽く触れた唇が熱くて。
「…キスもこれっきり。だけど俺は…。
俺はずっと莉奈が好きだ」
とくんっと音を立てる心臓に、体が一気に熱くなって、目を合わせるのがやっと。
目線を少しだけ下げて、精一杯の声を出す。
「…ごめん、私、優希先輩と付き合ってるから…」
「わかってる」
「それで…その、そのことでなんだけど…」
と、本来はなすべきことを話そうとすると、掴んでいた手を離して。
「あれは俺の勝手でやってるから、ほっとけ」
「勝手って…海斗、本当は女の子嫌いなはずなのに、無理してるんでしょ?」
海斗の思いに少し泣きそうになっていると、大きな手で私の頭をわしゃっと撫でて、
「大丈夫っつってんだろ。いつまでも女嫌いじゃダメだと思うし、いい機会なんだよ」
そう言って久しぶりに、優しく笑ってくれた。
「なんか…元通りの海斗でよかった…。
避けられるし、パシられないし、海斗らしくなくて、その、ちょっとだけ…寂しかった」
なんて恥ずかしいから俯きながら、柄にもないことを言ってみる。
でも、本心だもん。
「…さっきからお前さ、わかってて言ってんの?」
へ?
顔を上げようとすると、頭に乗せられていた手で押さえつけられた。
「ちょっ…なになに!?」
「ちょっと待て!下向いとけ!!」
「やだ!!とりゃ!」
無理やり頭をずらして海斗の手から逃れると、
「ばかっ…!」
すぐさま顔を逸らしたけど、耳まで真っ赤な海斗の顔があった。
「…照れてる」
「……うるせー」
「……」
「……やっぱやめた」
なにを?と聞く前に、海斗がまた口を開く。
「お前が幸せなら今まで通りの関係でいてやろうと思ったけど、無理」
「無理…なの?」
また笑ってくれると思ったのに…。
パシリはやだけど、またおはよってチョップ…って私はエムか!
じゃなくて、仲良く話せると思ったのに…。
「ぜってー、莉奈を俺に惚れさせてやる」
そっち!?
「ちょっと…私優希先輩と…
「だから、その優希先輩から奪ってやるって言ってんの」
まじですか…。
「俺は王様だから、ほしいもんは全部ほしい」
調子いいときだけ王様使いやがって〜!!
「もう!べつに受けて立ってやるけど、私は絶対あんたなんかに惚れないから!!」
「へいへい、今のうちに言ってろ」
「むっかっつっく〜〜!!!」