アンガーコントロール《6秒間の彼》
喫煙室から部下たちの声が聞こえてきた。
さてはアイツら、さぼってるな?
「こないだBC産業の件で、あねきが助けてくれたんスよ」
もはや「鬼」も抜けてただのあねきか。
「営業二課の嫌がらせだろ?あの人正義感強いから、そういうの許せないんだよな」
「そういう時はまさに『鬼に金棒』だよね」
「営業二課にも軽く圧勝だったスよ」
「あはは、さっすが鬼ちゃん!」
鬼ちゃん?最近はそんな風にも呼ばれているのか。
「たださ、すーぐ怒るんだよな」
「最近特にイライラしてない?」
「あねき、彼氏いないんスかね?」
「いるわけなーい」
「いるわけねー」
なぜそこをハモる!失礼な!
……残念ながら当たっているけど。
「まあ、仕事に生きてるからな、あの人」
「結構美人なのに、もったいないっスね」
「胸もデカいしな」
お前たち……上司の胸を眺める前に仕事しろ!
「そうは言っても40だろ?あんだけ仕事に打ち込んじゃったら……なあ?もう、ダメだろ」
ダメってどーゆー意味だ、コラッ!
でも……。
40って数字はなかなか重い。この私でさえ弱気になる。
親も私を諦めて、何も言ってこなくなった。
「そう言えばさ、後藤さん、アメリカから戻って来るらしいよ」
「後藤さん?」
「鬼ちゃんの元カレ」
「おおっ!まじっスか?」
……。
和也が日本支社に戻って来ることは、手紙を貰ったから知っている。
和也は3年前、ロス支社に異動した。そして私に一緒に来てほしいと言った。
でも、私は仕事を選んだ。
あの時別れて以来、季節が変わる頃になると和也は手紙を送ってきた。
画面で見るメールの文字より、手書きの手紙をやり取りすると、不思議とまだ繋がっているような気持ちになった。
内容は他愛のないことばかり。そして毎回同じ追伸があった。
『P.S.恋人はできた?ちなみに俺は一人だよ』
だから私も毎回返事にこう書いた。
『P.S.教えない』