アンガーコントロール《6秒間の彼》

ほーら、来た来た。
シケた顔した部下が二人。
今度はどんな案件だ?

「藤井課長。今少しお時間よろしいですか?」

「ん?いいよ。どうした?」

「実は、ちょっとした手違いがありまして、相手方がヘソを曲げてしまって……」

はあっ?
手違い?手違いって何だ!

『ほらっ!今だよ!さあ、僕に甘えて!』

あ、そうだった。やってみるか!

怒りをグッと飲み込んで、静かに目を閉じ彼に身を委ねる。

『いーち、にーい、さーん、しーい』

……。
ちょっと!ゆっくり数えてない?
6秒って案外長いのね。
うーん、耐えがたい。

『ごーお、ろくっ!はい、よく出来ました!』

スウーッと大きく息を吸う。

あれ?
なんだろう。
スッキリした感じ。

ゆっくり目を開けると、部下二人がポカーンと私を見ている。
それを見たら思わず笑ってしまった。

「あ、あの……、課長?」

まあ、いいか。
まずは事態の沈静化が最優先。

「その相手ってST産業でしょ?」

「え?……あ、はい」

「そうだと思った」

連中はわざと場を荒らして交渉を有利に進めようとすることがある。わかっていたのにマークしていなかった私もいけない。

「まずは私が電話をして向こうの出方を探る。うまくいけば訪問するから準備して」

「は、はい!」

うーん。
怒りに任せてカッとしない、というのは案外いいものかもしれない。

冷静に対処できるし、建設的な発想になれる。
なにより気分がいい。

悪くないじゃない!

『良かった。僕はいつでも君の味方だよ』

嘘くさいセリフね。

『嘘じゃないよ。僕には君しかいないんだ』

あ……。
3年前の和也のセリフと重なった。

「俺には瑞希しかいないんだ」

和也、もう忘れたよね?
都合のいい過去のセリフにすがりついてる私も私だ。

でも、忘れられないの。
私にだって和也しかいなかった。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop