アンガーコントロール《6秒間の彼》
終わりと始まり

それから私は事ある毎に6秒間、彼に癒されるようになった。

彼の囁きはいつも甘い。

『こっちにおいで』
『もっと甘えていいんだよ』
『今日もたっぷり甘やかしてあげる』

そんな彼にメロメロな私は、素直に身を委ね甘えてしまう。

でも、今日の彼は朝から変だった。

『これからも時々は僕のこと、思い出してね』

ん?
なに言ってんの?
どういう意味?

『もう寿命なんだ。ずっと君を守りたかったのに。……ごめん』

……え?
急にそんなこと言われても……。

私がドーンと甘え過ぎたから?
私のせいなの?

『違うよ、君のせいじゃない。何にでも寿命はあるんだ』

でも……。

『今日は大事な会議でしょ?さあ、行っておいで。大丈夫。僕はいつでも君のそばにいるよ』

……。
確かにもう行かなければ。

行ってくるけど、私が帰ってくるまで待ってなさい!わかった?

『いってらっしゃい』

どうしてちゃんと答えないの?
本当にさよなら、なの?
嘘、だよね?
やめて、そんなの。

それでも彼に背中を押され、資料を手に取り会議に向かった。

会議が終わった後、さっさとフロアに戻ろうとエレベータを降りた時。

「瑞希!」

「……?」

振り返ると立っていたのは和也だった。

どうして、ここに?

久しぶりに見る和也は、昔よりも力強くたくましく見えた。
でも、少し老けたわね。

「良かった……、会いたかった」

やめてよ、そんなセリフ。ドキッとするじゃない。

「いつ日本に帰って来たの?」

「昨日着いたばかりだよ。急に呼ばれてね」

「……そう」

和也は変わらぬ優しい瞳で私を見つめた。その瞳に見つめられると一瞬であの頃に引き戻される。

「元気そうだね」

「うん、和也も」

「瑞希……、なんか若返った?」

「は?やめてよ!何それ?」

「それは……誰かのおかげ、なのかな?」

あらやだ、男がいると思って妬いてるの?

「さ……さあ、どうかなっ」

そうだとしたら、それは6秒間の彼のおかげ。

あっ!そうだ!
私、彼が気になって急いでたんだ。

「和也、しばらくこっちにいるの?私、急がないと!」

「明後日まではこっちにいるよ」

「そう、じゃあね」

和也の視線を振り切るように急いで戻った私を待っていたのは……。

「藤井課長……。椅子、壊れました」

「……」
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