掌
「…目…赤いよ。」
「へへ…」
あたしを横目で見る健太君に、力なく笑うあたし。
「達也ん家行ってきたの?」
「うん…健太君は?真奈美とデート?」
気のせいか…健太君の肩がぴくっと揺れる。
そして、こっちを向いて明るく答えた。
「おう。久々のデートだった!」
どんなに明るく言っても、顔は今にも泣き出しそうだよ…?
沈黙の二人。
電車の線路を走る音や、向かいに座るサラリーマンの話し声が、頭に響く。
「…俺……真奈美にふられちゃうかも。」
へへっと笑いながら健太君が言った。
「…え…?」
健太君…なんて言った?
夏休み前とか海とか…あんなに仲良かったじゃん。
理由が聞きたかったけど、健太君の無理に頬を緩めた笑い方が、あたしを思いとどまらせた……。
「達也…まだ殴ってくんの?」
心配そうな顔であたしに聞く健太君。
「ん…?ん……」
でも、曖昧に流す事しかできないあたし。
「お互い別れて、俺らが付き合っちゃおっか…。」
なんつってね。
と呟いて、健太君は最後に笑顔で手を振って、電車を降りていった。
健太君は真奈美しか
あたしは達也しか
考えられない事、分かってるくせに……
「どんな時でもふざけてるんだから……。」
いつも楽しませてくれる健太君の冗談は…
今は痛々しいよ………。
また一人になり、オレンジ色の車内で、流れゆく景色を見ていた。