掌
夜7時。
クラス会はうるさいほどの盛り上がりで、笑い声が絶えない。
けど、あたしは笑顔の輪の中に入っていけない。入る事は許されない。
達也の顔が、頭の中にこびりついてるから……。
「んじゃ、あたしもう行くね。」
「うん…また明日ね!」
真奈美だけに別れを告げて、コソコソとクラス会をあとにした。
「ふぅっ。」
駅前の居酒屋を出て、短く息を吐くあたし。
なま暖かな風が吹く9月は、7時になれば空は深い藍色で……
夏が徐々に過ぎ去っている事を、思い知らされる。
その空気を、景色を、あたしは今でも忘れられない。
その空気の中に
同じ景色の中に
あの人が立っていたから…。
冷たい汗が、全身からじわりと出るのがわかる
手は小刻みに震え
顔は
恐怖で歪んだ。
「なんで……ここに…?」
俯き加減…でも鋭い目線をあたしから外さない
達也がいた。