掌
あたしに、何かが覆いかぶさる。
暖かい…
忘れかけてた、人の暖かい温もりが、あたしを固い…冷たい拳から守った。
顔を恐る恐るあげると
「真奈美………。」
涙を流しながら、あたしに抱きつく真奈美がいた。
初めて見る真奈美の涙。
「どいて。真奈美ちゃん。」
達也は、力ずくで真奈美をあたしから離そうとするけど
真奈美はあたしから離れようとしない。
必死にあたしに抱きつく。
あたしを守ろうと………
「どけよ!」
達也は怒鳴り、大きな掌をあげた。
「やめ……っ」
あの掌の痛さを、あたしは嫌というほど知ってる。真奈美にまで、あの痛みを味あわせるわけにはいかない。
なのに真奈美は離れない。あたしから離れない。
「やめろ!!」
そしたら、達也の腕を後ろから掴む、もう1つの大きな手があった。
健太君がいた。
「健太……」
自分の親友に止められて、さすがに達也も腕をおろし黙った。
なんで健太君と真奈美がここにいるのか分からない。
けど
あたしのために、涙を流す真奈美がここにいるのは事実で……
あんなにひどく突き放したあたしを、守ろうとする真奈美がいるのは事実で………
あたしは
「ありがとう」
という事しかできなかった。
唇や鼻から血を流し、頬は赤く腫れて土まみれで……
そんな不細工な笑顔で
ありがとう…ありがとう
と言う事しかできなかった………。