涙といっしょに、心の奥の…深い深い所にあった思いが出てくる。



「達也が……怖いの……。あたしの大好きだった達也が、もういない………。」


真奈美は黙って聞いてくれた。



「謝っても謝っても……許してくれない…。あたしの顔が変わるまで殴るの……。」



思い出すだけで震えが止まらなくなる。




「達也を怒らせないようにしてた……けど、もう疲れたよ…………。」



達也の前では、いつの間にか、いつも作り笑いだったあたし。
必然的に、口数も減っていったあたし………。





「歩……よく頑張ったね。」


あたしを撫でる真奈美。


真奈美の手のひらは、達也に比べたらちっぽけだけど、暖かくて…優しくて…。



昔は、達也もよくあたしを撫でてくれた。

今の真奈美のように暖かい優しい掌で………。






でも、もうそんな掌ないんだ。




もう戻ってこない。





数ヶ月前、この時計台の下で初めてキスをした。

真奈美の腕の中で顔をあげると、目の前に
あの時のあたし達が幸せそうに立っていた。


けど、そんな頭の中の残像も、すぐに儚く風と共に消えていった……。






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