掌
久しぶりに来た小さな洋風のアパート……。
足音が響く無機質な階段を急いで駆け上がる。
インターホンを押しても、返事はない。
夜も遅くて、静かなアパートは、あたしの荒い息だけが目立つ。
深く深呼吸して、自分を落ち着かせ、何度も出入りした鉄製の扉を力を込めて叩いた。
「達也…あたし。歩だよ。」
そして扉ごしに言うと
ガチャ………
ぼさぼさの頭が中から出てきた。
「いらっしゃい。」
弱々しく笑顔をつくる達也がいた。
久しぶりに見る達也の顔は、今にも泣き出しそうな…たれ目がますますたれてて……
愛しくて愛しくて……
あたしは、いつもの達也の部屋に入っていった。
消えたアザは消えたままで、痛みなんかなかった。