掌
『初めは、軽く叩いたりする程度だったけど、一回殴っちゃったらしい。』
それが原因で別れて、恋愛ももうしない。ってその時、達也君は言っていたって……。
『結局、歩ちゃんと恋愛しちゃってるんだけどな、アイツ…。』
健太は、電話越しに達也君をけなして、笑わせようとしてくれたけど
今の私は笑えない。
笑うどころか、汗が垂れていた。
「どうしよう……達也君って、暴力癖があるって事だよね?歩は…歩はどうなるの?」
混乱する私に、健太は静かに
俺にまかせろ。
そう告げて、長かった電話を切った。
ツーツーツー……
機会音しか聞こえない携帯電話を、耳にあてたまま、私は冷静になっていく。
…………私、とんでもない事を、してしまったのかもしれない。
お調子者で、空気をよむ事が苦手な健太だもん。
変な事、達也君に言わないかな…?
でも、本気で歩の心配してたし……大丈夫だよね?
私にはできなかったけど…健太なら、達也君の暴力を止められるよね?
私は、祈るような気持ちでいたけど
3日後……
私の祈りが、届かなかった事を知る。
逆に、悪い方向へと歩を導いてしまっていたんだ。