掌
「もうあたしに関わらないで。」
頭に、ずっとこだましてる。
暑いはずなのに、背中が、すーっと冷たい。
セミの、けたたましい鳴き声もどこか遠くだ。
あの子は、一回も振り向く事なく、駅の中に消えていった。
それは、10分くらいも前の出来事。いや、もっとかな…。
立ち尽くして、動けなかった私に声をかけたのは、健太だった。
「どうした?ぼーっとして…歩ちゃんと、何かあったんか?」
私の肩に手をかけ、顔を覗き込みながら聞いてきた。
「…達也君に何て言ったの…?!」
肩から手を払うような勢いで、健太に叫ぶように聞いた。
「え…っ…?」
半笑いで、だけど目は泳いでいる。
デートを放って、街中に置いてきた健太が、なぜここにいるのか分からない。
きっと…私の焦った様子を見て、心配して家を訪ねようとでもしてくれたんだろう。
そんな健太に、怒鳴った。
でも私は何て言ったのか覚えてない。健太の表情も、覚えてない。
力任せに叫んでいた。
きっと責めるような言葉だろう。
家に帰って、大声で泣いた。
歩にも、健太にも、申し訳なさでいっぱいだった。
私、何にもできない。何にもできないくせに、達也君と健太を責める事だけは、一人前なんだ。
歩を助けられない。
もう、私には何もできない。