「もうあたしに関わらないで。」



頭に、ずっとこだましてる。
暑いはずなのに、背中が、すーっと冷たい。
セミの、けたたましい鳴き声もどこか遠くだ。



あの子は、一回も振り向く事なく、駅の中に消えていった。


それは、10分くらいも前の出来事。いや、もっとかな…。


立ち尽くして、動けなかった私に声をかけたのは、健太だった。


「どうした?ぼーっとして…歩ちゃんと、何かあったんか?」



私の肩に手をかけ、顔を覗き込みながら聞いてきた。



「…達也君に何て言ったの…?!」

肩から手を払うような勢いで、健太に叫ぶように聞いた。


「え…っ…?」

半笑いで、だけど目は泳いでいる。


デートを放って、街中に置いてきた健太が、なぜここにいるのか分からない。
きっと…私の焦った様子を見て、心配して家を訪ねようとでもしてくれたんだろう。


そんな健太に、怒鳴った。
でも私は何て言ったのか覚えてない。健太の表情も、覚えてない。
力任せに叫んでいた。
きっと責めるような言葉だろう。




家に帰って、大声で泣いた。
歩にも、健太にも、申し訳なさでいっぱいだった。

私、何にもできない。何にもできないくせに、達也君と健太を責める事だけは、一人前なんだ。



歩を助けられない。

もう、私には何もできない。 





< 188 / 216 >

この作品をシェア

pagetop