掌
「…………………………えっ?」
小さな声で、よく聞こえなかったけど……
ごめん??
達也君、ごめんって言ったの??
なんで??
あたしの頭は、混乱するばかり。
「自分の口から言わなきゃ、と思ってたのに……。健太に言われちゃったよ。」
池内君はうつむいてて
顔が見えない。
けど、真っ赤な耳が、サラサラの黒髪から少し、のぞいていた……。
「田辺さん……」
ドクンドクンドクン……
自分の心臓の音で、池内君の声が聞き取りにくい。
「……なに…?」
「前から好きだった…。付き合ってくんないかな…?」
顔をあげて
真っ赤な顔で
たれ目の細い目をもっと細くして
池内君は笑っていた。
達也のその笑顔が大好きだった。
でも、今は思い出せないよ。
達也……この時あたしが
「……うん…。」
なんて言わなかったら
達也もあたしも
あんなに苦しまずにすんだのかな……?