掌
「見なかったけど……?」
二人を探すため、駅の方へ走りだした私に、健太がついてくる。
「達也君、ここに来たみたいなんだけど……。……なんで、1組のクラス会に歩が来てる事、分かったんだろ……。」
私の一人ごとのような疑問に、少し黙った後、健太が答えた。
「……俺が教えた。」
トラックが横を通って、健太の声がかき消されたかと思ったが、私の耳には入ってきた。
信じられない言葉が。
立ち止まって、後ろからついてきてた健太の方を振り返った。
私と目が合った健太の表情を見れば、この時、私がどんな形相だったのかが分かる……。
「……なんで…?」
「……1組の奴とたまたま会って、クラス会の事と場所、俺ら知ったんだよ。」
健太は言いずらそうに、続けた。
「達也が参加メンバーを聞く前には、1組の奴どっか言っちゃって……俺は聞いてたから、教えた。」
「…………。」
言葉が出ないとは、この事だ。
唯一、絞りだした台詞は
「……信じらんない……。」
これ以上は、何も言えなかった。
クラス会に、歩が参加してるなんて聞いたら、達也君がどう思うかなんて、健太だって予想つくでしょ?
知らなかった達也君に、なんでわざわざ教えるの?
理解できない。
健太だって、歩の友達じゃん。
歩の事、心配してたじゃん。
なのに、なんで?
頭の中は、健太に対する嫌悪でいっぱいだった。
でも、思わず仰け反ってしまうような怒鳴り声が、駅の裏の小さな公園から聞こえると、そんな頭は真っ白になった。
抵抗もできずに暴力を受ける私の親友。
あんな奴と付き合う前は、笑顔が絶えなかった姿が、今は無残に汚されている。
小さく、小さくなっている。
鈍い音が聞こえる。
やめて……やめて……
「やめてぇー!!」
涙でぼやける視界。けど、守りたい姿だけはよく見える。