掌
「健太、別れたいの。」
自分でも驚くほどに、冷静に言った。
扇風機が音をたてて、首をふっている。
私の部屋で、私に背中を斜めに向けながら、黄色の熊のぬいぐるみと戯れる健太。
静かに、熊をDVDコンポの上に座らせて、熊に話すように呟いた。
「…ずっと覚悟はしてたけど、いざとなると、きついもんだな。」
扇風機の風が、健太の茶色い髪をなびかせ、睫毛が切なげに下を向く、健太の横顔が見えた。
大きな、広い背中が、小さかった。
もう分かんないんだ。健太の考えも、行動も。
私が、歩に執着しすぎてるのかもしれない。
今別れたら、後悔するかもしれない。
でも健太は、違う子とでも幸せになれる。
私は、歩が笑顔じゃなきゃ、幸せになれない。
今の歩は、私が笑顔にさせる。
もう決めたの。
ごめんね、健太。