掌
とうとう学校から最寄りの駅に着いた。
あたしと達也は、電車の方向が逆だから、ここでバイバイだ。
駅の前の、小さな広場。
たくさんの人達が待ち合わせに使う時計台の下で、あたしと達也は、手をつないだまま立ち止まった。
まだ離れたくないよ。
明日になれば、また学校で会える事は分かってる。
けど、1日1日が幸せに満ちたあたしには、その1日1日が、かけがいのないもので……
今日という24時間を達也との時間で、埋め尽くしたかった。
だから、少しでも多く、達也の隣にいたかった。
けど、照れ屋のあたしは何も言えず
「また明日ね。」
と言いながら、離したくない掌を離す事しかできない。
達也は、そんなあたしの心を読んでくれたのか……
改札口に向かわず、つないでいた掌で、頭を撫でてくれたんだ。
温かい大きな掌で、頬を撫でてくれたんだ。
少し、しめった達也の掌は、とてもとても愛しくて………
いつもたくさんの人が溢れる駅前の広場が、今だけはあたしと達也だけの空間に感じた。
そして、自然に
とても自然に
達也の唇が、あたしの唇にふれた。
薄暗い5月の夕方。
時計台の下。
少し冷たい風と、暖かい幸せに包まれながら、あたしと達也はキスをした……。