平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
静かに、アタシを諭そうとする兄上の言葉が重い。どうせなら、怒鳴られた方が楽だ。
「人の運命は曲げてはいけないんだ。」
言い含めるように、強く言葉を発する兄上に唇を噛む。
「それでも、兄上っ!!ワタクシは運命を替えようというのではありません!!」
ただ、本来より多くの…右大弁様やそれに関わる者、四の君の例の件を知っている者の記憶を消そうとしているのだ。
「…たしかに、直接運命を替える事にはならないかもしれない…」
「ならっ…」
言い募ろうとするアタシを、兄上は片手を上げ制する。
「直接は運命を替えなくても、後々に歪みが生じるのはあり得るだろう。」
拳を作り、力をギュツと入れ、小刻みに震えているアタシに気付いたのだろう。
兄上はもう一度言う。
「聖凪…人の運命を曲げてはいけないんだ。」
そう言ってアタシの肩をぽんぽんと叩く。
「父上でも、きっとこう言っただろう。」
さぁ帰ろう、と兄上が再び忘却の術を唱えようとした時、ここにはいるはずのない人物の声がした。
「私だったら、そう言う…とは誰が勝手に決めたのだ?」
反射的に、兄上とアタシ二人声がした方へ向く。
「「ち、父上っ!?」」
アタシと兄上の声が重なる。
驚いて目を見開いているアタシ達兄妹を見て、父上は満足そうに笑っている。
そんな父上に、アタシより早く持ちなおした兄上が近づいて行く。
「父上、今の御言葉、どういった意味でしょう?」