平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
納得出来ないという風な兄上の肩を、父上はまぁまぁと言いながら宥める。
「確かに、陰陽師は人の運命をむやみやたらに替えてはいけない。」
だか…と父上は続ける。
「…誰が、その人の運命はこうである。…と決めたんだ?」
父上が今しがた、少しの躊躇いも見せずに放った言葉に、アタシと兄上は眉を寄せる。
「…それは宿図が示してあります。」
「だがそれは、人が創ったものに違い無いだろう。」
兄上の言葉を、父上はすかさず否定する。
「しかし、それを創ったのは父上ではありませんかっ!!」
そうだ、陰陽の頭になる少し前は、父上は天文博士だったのだ。
そうなると、今の宿図は父上が創ったものであるとしか言い様がない。
「ああ、私が創った。……しかし、それは傲りだろうよ」
運命とは、人間が勝手に決めていい物ではない。
それをする事は傲りだろう。
その人間がどの様にに生き、どの様に死んでいくかは神が決める事だ。
「しかし、人にも運命を切り開く力がある。それを神への冒涜だ何だと、どうして禁じれようか?」
「…それに、きっと四の君は、こうして聖凪に助けられる運命だったのかもしれない。」
黙ったままのアタシ達に、父上は最後を締めくくった。
「…結局のところ、運命なんてものは、私達人間には計り知れない処にあるんだよ。」
まあ、私の宿図は貴族達の建て前だよ。と苦々しく笑っていた。