平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「さて、聖凪お前はかえりなさい。お前は入内前の身なんだよ。」
「でも…」
「もし、二条のお邸の方々が目を覚ましたらどうなる?」
父上の言葉に、兄上は不機嫌そうに顔を歪めたが、それ以上何も言わなかった。
「…父上、確かなのですよね?」
アタシの問いかけに、父上は深く頷く。
…だが、やはり心配なものは心配なのだ。
「大丈夫だから、お前は早く帰りなさい。」
アタシの天将達に、後は頼んだよ、と言いながら父上は四の君へと向き直る。
それでも尚その場を動こうとしないアタシに、父上はもう一度振り返る。
「聖凪、私は嘘はつかない。大丈夫、安心して帰りなさい。」
「父上、それでもワタクシはここに残り、事の終わりを見届けたいのです!!」
言い募るアタシに、父上は眉を寄せ暫く目を閉じる。
そしてもう一度目を開いた時には、とても静かな目をしていて、背筋が思わず凍り付いた。
「ふぅ…好きにしなさい。」
アタシが、その言葉に安堵したのも束の間。
次の瞬間には自然現象ではない人為的な…と言っても、普通の人間にはすることは出来ないのだが。
父上の起こした風神の風に包まれていた。
「…だが、出来たらの話だ」
「ちょ…父上!!」
父上がアタシに、背を向くと同時に、アタシは空中へと放り出される。
こうなっては、何もする事はできない。出来る事と言ったら、父上を恨むことくらいた。
風は止まる事無く、真っ直ぐに二条のお邸を目指している。
仕方ないので、四の君は父上がなんとかしてくれる、と自分に言い聞かせていた時
────風がふつりと止んだ
ドサッ
アタシは為す術も無く、地面に叩き付けられた。
いや、もし父上が二条のお邸の前で風が止む事を教えてくれていたなら、アタシはうまく着地出来ただろう。
「…本当に恨みますよ、父上」
そう一人で呟いた時、頭上から驚嘆した様な声が降ってきた。