平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
そんなに可笑しい事なのだろうかと、内心思いつつも、あえてそれは口に出さない。
なんだかこの方と話していると、心が安らぐ…
安らぐのだけれど、この方の側にいると身体がドクドクと物凄い音を立てるのだ。
それに加え、今アタシはあの四の君の形代を持っていて、立っているだけで相当な霊力を消耗する。
アタシも出来るだけ早く、お邸に戻らなければ。
少々名残惜しい気もするが、では、と頭を下げその場を去る。
がしかし、数歩進と膝が砕けた。
思いの外、霊力を消耗している様だ。
地面に倒れると思い、思わず身を強ばらせたが、いつまで経っても固い地面の感触はせず、代わりに温かいものに包まれた。
「大丈夫ですか?」
貴雄様の声に反応し、顔を上げると、すぐそこに初めて見る貴雄様の顔があった。
確かに、灯りは何もないがこんな至近距離ではそんな事通用しない。
すぐに顔を反らし、離れようとするが身体に力が入らず、身動ぐだけに終わる。
───ドクンッ
懐に閉まっている四の君の形代から、一番の負の念が身体に伝わった。
「っ…」
「姫?」
それを最後に、アタシの意志は途切れた。
すると、そこに三つの影が飛び降りた。
息を飲む貴雄に、人外の者が極めて冷静な声を上げる。
「彼の姫は、我らが主。主は我等に任せて早々に立ち去るがよいでしょう。」
人外の女がそう言うと、側にいた人外の男が貴雄に抱き止められている姫を、軽々と抱き上げる。
姫を抱いた者が、いち早くこの場わ去り、それに付き添う様に人外の少女も闇に紛れていった。
「今宵の事は他言無用。すぐに忘れる事をお薦めします。」
最後に残った女は、それだけ言い先の二人を追って、闇に消えていった。