平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
───っ
身体がとにかく熱い
何かが身体を締め付ける様に、息苦しい
「…っ」
目を開けると、見慣れた天井に優しい風貌の女性が見えた。
「お目覚めですか?」
起き上がろうとするアタシに手を貸しながら、女性が優しく問いかける。
見ると、誰が着せてくれたのか寝着を着ていた。
アタシが何を見ているのか気付いたのか、女性が答える。
「流石に、あの格好で寝るのはどうかと思いましたので、私の判断で…」
「ありがとう、貴人」
貴人が掛けてくれた衣に手を通し、周りの様子を伺う。
今は何刻だろうか。見たかぎりでは、正午になる前だろうが、普段なら控えているはずの女房の気配が少しもしない。
この感じからすると、この西の対にはアタシ以外は居ないのだろう。
皆どこに居るのだろう
首を傾げるアタシに、貴人がふわりと微笑む。
「心配には及びません、昨夜の事がありますので家人総出で、晴明様が加持祈祷をしていらっしゃるのですよ」
皆さんは、寝殿にいらっしゃいます。
なるほど、流石に昨夜の出来事は“気のせい”では住まなかったのだろう。
父上の事だ、きっと
《悪戯好きの妖が入り込んだのでしょう》
などと、誤魔化したに違いない。
そこで、ふと思い出す。
「貴人!!着替えた時に、懐に形代が入っていなかった!?」
あれは時間をかけて、ゆっくりと浄化をしなければならない物だ。
無くなりなどしたら、それは大変な事が起こるだろう。
「聖凪様、落ち着いて下さいませ…此方に…」
慌てるアタシに、貴人は御帳台の端から文箱を取り出した。
「晴明様がこの様に、と申されましたので」
貴人から文箱を受け取り、安堵する。箱からは父上の霊力が伝わってきた。
これからはアタシが毎日、霊力を注ぐ事により、浄化がされていくだろう。
だがその間は、アタシに負の念が向くだろうが、仕方がない。