平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「そういえば…ワタクシはどの様にして此処まで来たのかしら?」
「私はその場には居なかったので、詳しい事は知りませんが、六合が連れて来てくれたんだそうです。」
そう…と呟き、瞼を少し伏せる。
あの後、貴雄様はどうしたのだろうか。意識を失った者をその場に置いて、立ち去る人には見えないけれど…
そこまで考えて、ある事を思い出す。
あ、アタシ…貴雄様に顔を見られたかもしれない…っ
それに、よく考えれば貴雄様に抱き止められたのだった。兄弟以外で、殿方とあんなに接近したのはあれが初めてだ。
思い出して、身体中が熱くなる。
唯一ひんやりとしている、手の甲で顔の火照りをとる。
「如何なさいましたか?…まだお身体の具合が優れませんか?」
心配そうにする貴人に、大丈夫よ、と言おうとして、また胸を押さえる。
「…っ」
負の念が伝わってきたのだ。
身体を固めて、その痛みをやり過ごす。身体中から冷や汗が出るのが分かる。
「…大丈夫よ、もう治まったから」
「その様ですが…やはりまだ横になっていた方がよろしいかと。」
額に浮かんだ汗を拭いてくれながら、横になる様に促され、アタシはそれに大人しく従った。
暫くすると、女房達が寝殿から戻って来た。
「まぁ、姫様ようございました。お目覚めになられたのですねっ」
「また後程、陰陽の頭がいらして下さるそうですよ。」
柊杞がアタシの額に触れ、安堵の声を漏らす。
「本当にようございました。姫様は昔からご病気だけはなく育っていらしたのに…今朝は少しも目を覚ます気配が無かったので、私肝が冷える思いでした」
と、胸に手を当てる。
「ありがとう、中将の君」
「いえ、後数日で入内ですしそれまでに落ち着けば良いのですが…」
と心配する柊杞に、何とか頑張るわ、と微笑んでみせた。