平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
四の君の念を受け継いでから数日、アタシはようやく一日中起きて入れるようになった。
当初は、寝ている間にも発作の様に度々念が伝わってきて、全く身体を休める暇が無く、回復が大幅に遅れてしまった。
近頃は、念が思い出しでもたように、微弱なものが偶に伝わってくるまでに弱まった。
平安の都も、四の君の一件以来平穏を取り戻しつつある。
以前お祖父様に伺った方々も、無事参内している様だ。
四の君は、アタシが念を取り除いたからか、先日全快したと、兄上から伝え聞いた。
そして、例の件は四の君や右大弁、それに関わる人々は一切何も覚えていないらしい。
アタシは、その事を聞いた時やっと、ほっと胸を撫で下ろした。
兄上はと言うと、依然中務省と陰陽寮を行ったり来たりしているそうだ。
父上も、例の九尾と思われる黒幕の正体が分からないだとか。
「…本当に、一体何者かしら?」
そう呟き、綺麗な円を描いている月を見上げた。
…明日はとうとう入内となった。
お祖父様は大層お喜びになられて、「今日は早々にお休みなさい」と言われ、アタシは早めに御帳台に入ったのだ。
だが、当然休む気にもなれず、女房に気付かれぬ様に対屋を抜け出したのだった。
天将達も、今は傍に誰も控えていない。
こんな事は本当に久しぶりだ。
今アタシは築地塀の上に居るが、人避けの呪いをしているおかげで、人が寄ってくる気配は全く無い。
……無いはずだったのかだが…