平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
気配を殺して御帳台に入ると、貴人が先程と同じく少し責める様な視線を向けてきた。
「姫…私は人の政などはよくは存じませんが、一人で知らぬお方とお話をなさいますのは、お控え下さいませ」
一族の方々もですが、一番傷つく事になるのは姫なのですよ、と貴人が悲しい顔をする。
「ごめんなさい。心配をかけたわね…でも大丈夫、これが最後だから」
貴人の手を取って、もう心配させないようにと思いながら言うと、少しの笑みを顔に乗せて貴人は頷いた。
頷いた貴人に頷き返し、「もう、寝るわ」と今度こそ寝る体制をとる。
瞼を閉じて暫くすると、大丈夫だろう、と判断したのか貴人の気配が遠退いて行った。
───夢を視た
意外にも、夢と現実は見分けれる物なのだ、と毎回感心してしまう。
真っ暗な世界に覆われていて、気配でアタシの足元に人が居るのが分かった。
声をかけようにも、何かが喉の奥で詰まっているかのように、息遣いだけが聞こえる。
仕方なく注意して気配を探ると、女子と思われる人が浅く速い呼吸を繰り返していた。
様子を伺おうと手を伸ばすと、横たわっていた人が雲の様にすっと消え、アタシの手は空を彷徨った。
間があって次の瞬間、胸を激痛が貫いた
「…っ」
「…ま、姫様っ」
身体を揺り起こされ、反射的に身を起こす。
辺りをきょろきょろと見回すアタシに、少し驚いた様にしながらも柊杞が困った様に笑う。
「お早うございます、姫様。全く姫様は、このような日にも平然と寝過ごされるのですね。」
夢のせいで曖昧な笑みを浮かべるアタシに、柊杞は訝しげにしながらも続ける。
「姫様、そろそろ準備をしませんと…大丈夫でごさまいますか?」
顔を傾ける柊杞に「大丈夫よ」とだけ言い御帳台を出ると、そこにはお母様が選りに選りをかけられ、自ら縫ってくださった真新しい衣が準備されていた。
目を細めるアタシに、「いよいよですね」と微笑みかける柊杞に頷き、衣に手を伸ばす。