平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
内裏へと向かう車は、お祖父様の持てる力を尽くした、とても華やかなものになった。
内裏へと向かう列を一目見ようと、たくさんの都人が集まり、またとない賑わいを見せた。
普段は、夜の暗闇に溶け込み隠密行動をしているアタシが、とうとう表舞台へと出ていくのだ。
不安が無いということは無い。
何時もよりもやや乱れている脈を、胸に手を宛て落ち着ける。
頭の中に、聖や翡翠、後幾日かで元服する桂に榊、そして母上の顔が次々に浮かんでくる。
「母上…」
そう呟いた時、車の内に居るにも拘らず、刺すような鋭い視線に捕らえられた。
それに反応するかの様に、胸を締め付けられる様な苦しみに襲われる。
一瞬息を詰めたアタシに気付いて、朱雀と青龍が現れる。
「姫っ」
「今のは、殺気が感じられた」
胸を抑えたアタシの背中を、朱雀が優しく擦り、青龍は辺りの様子を注意深く伺っている。
四の君の負の念と同じ要領で、胸の苦しみを和らげ、息を着く。
「ありがとう、朱雀、青龍。もう大丈夫よ」
心配で、優しい面差しを歪めている朱雀の頬に手をやり、そう言い聞かせる。
周りの様子を伺っている青龍と同じ様に、アタシも気を探るがもう残ってはいなかなった。
危険がないと判断したからか、青龍が緊張を解く。
「聖凪、お前…誰からか怨みでも買っているんじゃないのか?」
頭を掻く青龍に「そうかもしれないわね」と頷きため息を着く。
「呪咀の類では無い思うのだけれど…」
顔に手を持って行き、三人で首を傾げた。