平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
それから直ぐに、「もう大内裏に着きます」と声をかけられ、少し気を引き締める。
ほぅ、と息を吐き出す私に青龍が茶々を入れる。
「んなに、固くならなくても大丈夫。東宮は聖凪なんか、相手にもしない。」
腕を組んで、うんうんと頷く青龍を極めて冷たい目で睨み付ける。
朱雀が、慌てて青龍を叱責するのを目の端で映し、もう一度息を吐き出す。
「もう……」
と言うアタシの呟きは、誰にも聞こえる事は無かった。
先程とは違う、つきりと痛む胸に切なさを思いながらも、瞼を閉じ車の揺れを静かに受けとめた。
内裏に入り、アタシは内裏の鬼門でもある淑景舎、別名桐壺があてがわれた。
これに至っては、それなりの問題があったようだ。
今は、内大臣の女と言っても、元はただの貴族の女には変わりないのだ。
更衣と思われたアタシが、女御という位に着けたのは、お祖父様が大変な苦労を為さったとか。
お祖父様に信頼を寄せている、帝の口添えがなければ、成り獲なかったのだ。
納得出来なかった殿上人も多く、条件と言うと感じが悪いが、女御となるにあたっては「安倍の血を以て鬼門を封じよ」と言う事だそうだ。
淑景舎という端の舎で、お祖父様も少々落胆していた様だったが、入内という事は大変喜んでいらっしゃった。
桐壺に着き、女房たちがほぅ、と感嘆のため息をついている間に、先程の事があったため念入りに気配を探る。
が、どうやらアタシの思い過ごしだったようだ。桐壺からは何も感じとる事が出来ず、平凡な空気が流れていた。
一応側に控えている朱雀と青龍の顔も見たが、二人とも首を振るだけだった。
アタシも天将も何も感じないのだ、桐壺は本当に大丈夫なのだろう。
大丈夫、と自分に言い聞かせ、アタシもようやく腰を落ち着けた。