平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
アタシを見て首を傾げる柊杞に、曖昧な返事を返し、為されるままに女房たちからの身支度を受ける。
「あの女を、探さなくてもいいのか?」
腕を組んで問うてくる青龍に、「大丈夫よ」と目だけで応じる。
…大丈夫。
アタシが片をつける。
「ですが姫?その前に…」
苦笑いで言葉を濁す朱雀に、アタシも眉を下げ、微かに笑みを乗せる。
アタシはそのために入内したのだ、多少の不安はあれど、覚悟ならとっくの昔にできている。
準備が整い、数人の女房と共に、東宮御所である梅壺の別名を持つ凝花舎へと向かった。
扇で顔を隠しながら、女房には聞こえない程度の声を出す。
「判っているとは思うけれど、今宵は…」
そこまで言うと、朱雀が軽く重心を下げた。
「心得ております。…ただ、先程の件もございますので、危険を感じたようであればお呼びください。直ぐ様馳せ参じます。」
ささ、青龍。と青龍の腕を取り、アタシに一礼をしてから、朱雀と青龍は姿を消した。
二人の気配が完全に消えた事を確認して、ふぅと息を吐く。
…本当に何も起こらない事を祈るだけだ。
このような日くらい、何も起こらないで欲しいし、一人の女子として一つの事だけに心配を置きたいものだ。
まるでアタシ自身に引き寄せられる様にして次々と起こる事件に、決められているかの様に巻き込まれる、数奇な運命を呪いたくなる。
やはりこれも、安倍の一族たる所以なのだろうか?
そう、考えを巡らせているうちに、目的地である梅壺に着いたのだった。