平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
夜明け前には目が覚め、身体を起こそうとするのだが…
貴雄様の腕が、腰にがっちりと回されているため、それもかなわない。
昨夜の事もあり、貴雄様の顔を見ないように帰ろうと思ったのだが、残念ながら無理そうだ。
あきらめて貴雄様を揺り動かすと、寝呆けた貴雄様に、さらにきつく寄せられる。
もう、それだけで昨夜の事が思い出され、アタシの顔は自然と熱くなるのだ。
「貴雄様、貴雄様起きて下さいませ、早く帰り支度をしませんと、迎えの女房がやってきてしまいます。」
肩を揺すりながら言うと、貴雄様も今度はちゃんと目が覚めたようだ。
「…あぁ、お早いお目覚めですね」
「すみませんでした」と、それでやっと身体が解放された。
「いえ、そのような……まだ早い刻分でございますし、今一度お休みになってはいかがですか?」
支度をしているところを見られるのも恥ずかしいので、そんな事を言ってみる。
しかし、その申し出は貴雄様の笑顔を持って否定された。
「いえ、大丈夫ですよ。貴女が居るのに、そのような勿体ない事は出来ませんよ。」
まるでアタシの考えている事を見透かしたように、悪戯っぽく笑う貴雄に、恥ずかしさを覚える。
恥ずかしくて背を向けると、貴雄様にくすくすと笑われ「彼方を向いていますから」最後にはアタシの気持ちを酌んでもらえた。
待たせてはいけない、と急ぎ支度をしたのだが、支度が終わると丁度女房がやってきた。
申し訳なく思っていると、貴雄様の手で頭をなでられ「また、楽しみにしていますよ」と言われ、真っ赤になったアタシは梅壺を後にした。
夜明け前でしんとした辺りと、凛とした空気で顔の熱を覚ましながら、桐壺を目指す。
そんな時、またもやあの視線に捕らえられる。
こう何度も見られては、そろそろ慣れてしまうと言うものだ。