平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



右近が完全に去ってしまってから、すいっと庭先に視線を投じる。



するとその相手はそれに応える様に、うっすらと笑みを浮かべる。



アタシがため息をつくと、それを見逃さなかったようで、一瞬で間合いが詰まり鋭利な刃物がアタシの喉元に突き付けられる。



が、息を飲むのはアタシでは無かった。



「っ」



アタシとそう変わらない年頃の少女が、険しい顔で無理矢理笑みを作る。



「…そう、一人では無かったのね」



そう言ってアタシから視線を反らし、自分に当てられている太刀から逃れる様に慎重に一歩下がる。



そんな彼女にアタシは、これでもかと言うくらいの極上の作り笑いを向ける。



「また懲りずに遣ってきたのね。いい加減に諦めればよろしいものを…」



くすっと袖で口元を隠すアタシを、彼女はもう一度睨む。



「青龍、大丈夫だからその太刀を下ろしてあげて」



青龍は「なんだ」と残念そうに太刀を下ろすと、そのままアタシの一歩後ろに下がる。



「お久しぶりね、忍(シノブ)」



「まぁ、このような処でその名を呼ぶなんて、教養が足らないのね」



アタシを小馬鹿にするように、くすりと笑う。



「…」



笑顔を作った顔が、ひくひくと引きつる。



「…あら、普段は野山を駆け回り文字を読む事さえ嫌いな方に、教養が足りないなど言えるのでしょうか?」



引きつった顔を袖で隠しながら、わざとらしくほほほ、と笑う。



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